2022年度 IMMねいばーずの活動について
文=伊藤 尚子
(イミグレーション・ミュージアム・東京 スタッフ、IMMねいばーず)
IMMねいばーずとは
市民リサーチャー「IMMねいばーず」(通称:ねいばーず)は、アートと多文化に関連するイミグレーション・ミュージアム東京(以下、IMM東京)の活動に関心を持つ有志の集まりです。メンバーは足立区内外に住む社会人や大学生で、月に1度集まり活動を行っています。昨年度までは新型コロナウイルスの影響でオンラインの活動が主でしたが、今年度は対面での活動を取り入れることでメンバー同士が交流する機会を増やすことができました。
私はねいばーずの一員として2019年度より活動に参加し、2022年度はIMM東京事務局にも参加しながらねいばーずとしての活動を継続しています。2022年度のねいばーずのメンバーは足立区内の4つの小学校で実施予定のアート・エデュケーションプログラム(以下、EDP)に対する関心が高かったため、EDPに関連する内容を中心に活動を行いました。
ねいばーずの活動は、その時々のIMM東京のプログラムとの関連性やねいばーずからの希望によって組み立てられています。年度や時期によってメンバーの入れ替わりもあるため、ねいばーずにとってよりよい活動の機会を作るべく今年度も試行錯誤を続けながらの活動となりました。以前よりねいばーずでは都内の複数のエリアにおいてフィールドリサーチを行っており、今回はフィールドリサーチの対象を足立区内のEDP実施予定校のエリアに設定しました。
EDPに向けての足立区フィールドリサーチ
フィールドリサーチをするにあたり、休日のアクティビティ、紫の看板、子どもが集まる場所、軒先…などの着眼点を設定しました。これらに沿って写真を撮ることでまちの多文化性に気づいたり、子どもたちの目線でまちを観察することでどんな特徴があるまちかを意識できるように計画しました。また、この着眼点以外にもねいばーずがそれぞれの視点で「気になる風景」を写真に撮り、リサーチ後はディスカッションを行うことで、それぞれの視点を知り合う機会となればと考えていました。
7月の竹の塚エリアのリサーチでは初参加のねいばーずも多く、演劇活動に取り組む社会人やアートプロジェクトを学ぶ学生ら、フィリピンからの留学生であるIMM東京スタッフなどが参加しました。中華食材店、ベトナム食材店やいろんな言語の看板がかかっている雑居ビルなどまちの多文化性を感じさせるものや、布団を干す風景、特徴的な公園の遊具などねいばーずそれぞれが気になるものを撮影しました。見慣れない遊具について近隣の方に質問したり、食料品店でお菓子を買ったりするなかで話も弾みました。最後は地域の子どもたちとお年寄りが集う住区センターの一室を借りて、食料品店で買ったベトナムやフィリピンのお菓子をみんなで食べながら互いの写真を見てディスカッションを行いました。参加したメンバーからは、「写真でみると、他の人の視点と自分の視点が全然違うことがわかり興味深かった」といった感想や、「足立区に来たのは初めてでフィリピンの人が多い地区であることも知らなかった。実際に歩いてみて、多国籍な地域であることは思ったより感じられなかったのが面白かった」と言った声が聞かれました。
8月は小台・宮城エリアのリサーチを実施しました。地図上で見ると工場の多いエリアですが、実際行ってみると学校の隣の公園で子どもが水鉄砲で遊ぶ様子も見られてとても和やかな雰囲気でした。高架下の公園や川に囲まれた地形など小台ならではの風景を見て新鮮さを感じたメンバーも多かったようで、最後のディスカッションではメンバーが互いの撮った写真を見ながら盛り上がりました。足立区に住むメンバーは「自分の住んでいる場所よりもレトロな雰囲気が感じられた」と、レトロな雰囲気のある看板をたくさん写真に納めていました。足立区外に住むメンバーからは「新しさと古さが入り混じっている足立区の雰囲気を感じられた」との声があったほか、看板や建物などを見て「カラフルな街!」と感じたメンバーが多かった回でした。それを受けて「他のメンバーと回ることで、まちの色鮮やかなところに着目できた」と言った声が聞かれました。
これらの2回のリサーチは久しぶりに外に出た活動となり、フィールドリサーチをしながらメンバー同士が互いの関心について話し合ったり、交流する貴重な機会にもなりました。
EDPの準備から本番に向けて
フィールドリサーチで子どもたちの住む地域をあらかじめ体感した後には、アート・コミュニケーターの近藤乃梨子さんを招き、EDP内で実施する対話型鑑賞について学び、体験する機会を設けました。自分の気持ちに合ったアートカードを選んでそれを使って自己紹介をしたのち、実際にEDPで子どもたちが鑑賞する作品を鑑賞しました。自己紹介では季節柄多忙なメンバーが多く、忙しい自分を表すのにそれぞれが全く異なるアートカードを選んでいたことが印象的でした。対話型鑑賞でも「全員が同じ絵を見ていても異なる言葉が出てくることが面白い!」といった声が聞かれ、メンバーが互いの視点の違いに気づく機会となっていました。対話型鑑賞を初めて経験するメンバーも多く、「最初は何をするかよくわからなかったけど、こんな見方もあるんだと思った」と好評でした。また、私を含め以前にオンラインで対話型鑑賞を経験していたメンバーにとっても、初めての対面での対話型鑑賞はオンラインと比較して話しやすくとても新鮮でした。
そして11月から1月にかけて足立区内の小学校4校で実施されたEDPでは、ねいばーずはサポートメンバーとしてアーティスト・ワークショップや振り返りに参加しました。アーティスト・ワークショップでは子どもたちの発想の豊かさに驚きつつも、私たちも子どもたちと同じようにワークショップの作品作りに参加して一緒に楽しみました。「子どもたちってこんなに自由にものを作るんだ!」と言っていたメンバーもいたように、文字だけではなく絵や造形で表現してみたりと、子どもたち一人ひとりがじっくり考えて自由な発想で作品を作っていました。ねいばーずを含むたくさんの大人が現場に入ったことで、作品作りに取り組む子どもたちの何気ない声にねいばーずが気づいてやり取りを始める場面がたくさんありました。子どもたちにとって普段は会うことのないたくさんの大人と接する機会に、またねいばーずにとっては小学校で子どもたちと関わる貴重な機会となりました。初対面の大人たちとも、子どもたちは気にせずに接してくれたように思います。
多国籍美術展「Cultural BYO…ね!」とねいばーず
EDPのほかに、IMM東京のもうひとつのプログラムである多国籍美術展「Cultural BYO…ね!」でも活動を行いました。多国籍美術展については作品募集から展示の準備段階の状況まで、毎回のミーティングでIMM東京事務局からねいばーずへ共有していました。会期中はねいばーずも会場に足を運び、アーティストトークに耳を傾けたり、作品をじっくりと味わっていました。ねいばーずによる対話型鑑賞会も実施し、出展された作品をメンバーが選び、それぞれの見方や作品の好きなところについて語り合いました。
むすびに:今年度を振り返って
昨年度もねいばーずとしてEDPに参加した私としては、今年度のEDPにぜひいろんなメンバーに参加してもらいたいという思いを持っていました。その一方で、新たなメンバーも増えたことで、ねいばーず同士がお互いについて知り合う機会をもっと設けることも必要と考えていました。よりフランクな交流ができるようにミーティングをカフェで開催したり、おやつを持ち寄ってもらったり、活動日以外にもメンバー同士で東京藝大の藝祭やギャラリーへ訪問するなど、アートに関心のあるメンバーに楽しんで参加してもらえるような企画を立てて実施してきました。ねいばーずの背景は多種多様で年代もさまざまですが、メンバーは「アートが好き」という共通点で繋がっています。小学校でも、美術展の会場でも、そして普段のミーティングでも、普段の個々人の生活の中では出会わない人に出会えることがねいばーずの活動に参加する面白さです。それは活動を企画する際の難しさでもありますが、そんなねいばーずの出会いから今後もどんな新しいものが生まれていくのか、それを楽しみに日々活動をしています。
2022年度 IMMねいばーず 活動スケジュール
5月 キックオフミーティング
7月 竹の塚エリアリサーチ
8月 小台・宮城エリアリサーチ
9月 定例ミーティング
10月 対話型鑑賞講座&定例ミーティング
11月 EDP実施、定例ミーティング
12月 EDP実施、多国籍美術展への参加
1月 EDP実施
2月 振り返りミーティング&交流会