プログラム・メイキングについての対談

本ページでは、2024年度に小学校で開催された「アート・エデュケーション・プログラム」をどのように作っていったのかを振り返った対談を公開しています。

今回のプログラムの企画・運営に関わる3名が、約半年間かけて準備をしてきたプロセスを明らかにしていきます。実施の手ごたえや葛藤などを作りて側から言葉にしてみることを目的としています。

実施日時:2025年3月10日 18:30-19:30

実施場所:東京藝術大学千住キャンパス 


まずは、企画・運営に関わったメンバーの自己紹介から

神道朝子(IMM東京学生スタッフ):それぞれ自己紹介をお願いします。プログラムを作る中でどういうことを担当していたか教えてください。

寺山穂(IMM東京学生スタッフ):寺山穂です。東京藝術大学の音楽学部音楽環境創造科でアートプロジェクト専攻の3年生で、IMM東京の学生スタッフメンバーです。私はプログラムで音楽を担当しました。作っていく段階では、ダンさんが最初に出してくれた台本を一緒に音楽を織り交ぜながら構成していくことに注力しました。

ダン ダゴンドン(MM東京学生スタッフ)※実際の会話では英語を使用:ダンです。同じくIMM東京の学生スタッフメンバーです。当初、プレワークショップ(1日の最初に行う「想像力と音楽を使った身体を動かすワークショップ」)を担当していましたが、進んでいく中で、全体のプログラムの流れを作る役割を担っていきました。みみちゃんやIMM東京のチームメンバーと一緒に台本も書きました。

田辺梨絵(アートコミュニケータ):私はアートコミュニケーターの田辺です。私の役割は、対話型鑑賞のパートのプログラムを作ることでした。対話型鑑賞そのものとしても成立する内容にしつつ、クラスメイトつまり他者の視点を実感してもらうことを大切にしました。

また、プレワークショップとアーティストワークショップをつなぐ役割も持たせるように考えていました。二つの面からバランスを取ることを意識して作りました。


プログラム構想のはじまり

進行役:まずは、作る過程を振り返ってみたいと思います。構想段階から実施まで、すごく長いプロセスだったと思いますが、どのくらいの期間をかけたのか、どんなコラボレーションがあったのかを話していきましょう。

みみ:作ってきた変遷を、簡単にお話しすると、まず7月あたりから、プレワークショップと振り返りのワークショップの構想をチーム内で考え始めました。当初プレワークショップの目標は、エデュケーションプログラムの雰囲気を作ること、(参加者の緊張をほぐす)ウォームアップとして行うこと、直接多様性について話すわけではないけど、多様性に関わる自由な表現を目指すことでした。

7月中旬に私とダンさんで行ったブレインストーミングでは、お互いのテーマについて話しました。この時に、ダンさんから「皮膚とスライム」「ストレンジャー」というアイデアのキーワードが出てきました。スライムのなかを移動しながら探検する、即興的に音楽や動きを生み出すアイデアも出ました。

8月にはペコさんとの初めての打ち合わせ、9月にはIMM東京のチームでブレインストーミングワークショップも行いました。ここでは、スライムを実際に触りながら、プレワークショップを考える機会をチームで設けました。

企画を構想していくためのアイディア出しワークショップを実施

進行役:ここで、その「ブレインストーミングワークショップ」について、企画してくれたダンさんからもう少し詳しく教えてもらえますか?

ダン:「エイリアン」や「スライム」というコンセプトに対する興味を話しましたが、これはサラ アーメッドによるStrange Encountersという本に影響を受けたものでした。プレワークショップのプランを7月末までに出す予定だったのですが、他の演劇の作品に参加しており忙しかったので提出できませんでした。コンセプトはあったものの、何か新しいワークショップのプランを考えることには結構プレッシャーを感じていて、チームのみんなで考えられるとプログラムにとっても、自分にとってもありがたいと思い提案しました。当初「スライム」のコンセプトに注目していましたが、あまり自分で調べるのではなく、IMM東京のチームのメンバーにスライムに対する印象を聞いてアイディアを集めた方が面白いのでは?と思いブレインストーミングワークショップを開催しました。

進行役:ワークショップには、IMM東京のチームメンバーとアートコミュニケーターのペコさんも参加してくれましたが、集まったスライムの印象をどういう風にプログラムに活かしていったのでしょうか。

ダン:この企画段階でのブレインストーミングワークショップで自分が一番得たものはスライムのコンセプトについてではなくて、プログラムをどう一緒に作っていくかということだったと思います。当初ワークショップを作っていくことに不安があり、自分自身にプレッシャーを与えていたので、他のメンバーと一緒に作っていくことができて自分だけのワークショップとしてではなくいろんな人の考えが入って、作り上げていくワークショップを作れたらと思うようになりました。「エイリアン」や「スライム」というコンセプトを絶対に使いたいという気持ちよりもどうやってみんなの意見を入れられるかを考えていました。でも、同時に他のIMM東京のメンバーやアートコミュニケーターのペコさんに負担をかけているのではないかという不安もありました。

コラボレーションのプロセスでの負担について

進行役:コラボレーションの中で、同時にみんなの負担が増えてしまうのではないかという心配も、ダンさんにはあったんですね。その辺はぶっちゃけどうでしたか?

田辺:私は全部の打ち合わせに出られたわけではないですが、むしろそのプロセスを見ること自体が楽しくて、負担とは思いませんでした。それに、「スライム」とか「エイリアン」とか「ストレンジャー」って言われても、最初はなかなかイメージがわかなかったんですけど、実際にブレインストーミングワークショップの時にみんなでスライムを手に取って遊んでみて、他者性というか、ダンさんがやろうとしていることが少しだけ掴めた気がしました。すごく良い手がかりになったと思います。

寺山:私は、このブレインストーミングワークショップの前に、ペコさんと上野でミーティングをしたときにも、今年のプレワークショップと振り返りの中で「こんなことをやりたいんです」って話をしたんですけど、たぶんそのときもスライムのテーマを持って説明しようとしたけど、うまく言葉にできなくて、正直、自分の中でもまだしっかり解釈できていなかったんです。でも、ブレインストーミングワークショップでは、実際にスライムを触ることで、スライムの持っている特徴、例えば触ってみると自分の持っている体温や形に変化していくのとか、そういう不可思議だけど触りたくないと、最初に思っていたほど触り心地が悪いわけじゃないということにも気づいたりして、話ではなく実践してみることで気づけたというのが、すごい面白い機会でした。

ダンさんが作っていく時に自分のワークショップという認識からみんなでコラボレーションにしていくという切り替えがあったということに関しては、最初は「ダンさんが一人でやったほうがいいんじゃないか」と思う部分もあったんです。たとえば、最初に2人でブレインストーミングしたとき、私が「音楽を入れたい」と言ったら、ダンさんがすごく受け入れてくれて。でも私は、「ダンさん、本当は音楽入れるの大変そうなのに、優しさでOKしてくれてるのかな」ってちょっと思ったりもしていました。実際にやることになったら、すごくワクワクする反面、「私、言っちゃったけど大丈夫かな」って不安もありました。

ダン:自分はIMM東京の学生スタッフとしてマネジメントを担当していますが、学校やアーティストとの調整役を担うことはあまり得意ではないと思っているのですが、そのなかでプレワークショップを担当するということは、唯一自分ができることだと思っていました。それをチームにひらいてやるのは、他のメンバーへの負担が増えるので申し訳なさもありました。みみが音楽を入れたいと言った時、嬉しかったけど、マネジメントの部分でも担当していることがあるのにさらに負担をかけてしまうのが心配でした。アートコミュニケーターのペコさんには、すでに対話型鑑賞のプランを作ってくれていたのに、ストーリーの台本が完成した後にプランを変更してもらうことになってしまったので、この共創(co-creation)のプロセスがもたらす負担に対して不安を抱えていました。

寺山:でも、私はむしろ、音楽という役割を持たせてもらえたことで、すごく楽しく関わることができました。辛かった時期の中で、唯一楽しかったのが、自分が音楽でここに関わっているというモチベーションでした。本当に、良かったです。

ダン:私にとっても、すごくモチベーションになりました。最初にみみの音楽を聞いたとき、実際にできそうなイメージが持てて、盛り上がったし、このまま創っていくことを後押ししてくれるきっかけになりました。正直、前年度までにやっていたワークショップを繰り返す方が良いのではないかという思いもあったのですが、みみの音楽を聞いて、ペコさんが台本に対してコメントをくれたことで、一緒に創っていくことが本当に可能だという風に思えるようになりました。

プログラムの冒険ストーリーが出来ていった経緯

田辺:私、ちょっと素朴な疑問なんですけど、 いつから、あの、冒険譚(アドベンチャー・ストーリー)になったんですか?

ダン:9月に行ったIMMとの2回目のブレインストーミングのときに、「このプログラムを通して考えていきたい問い」を選びました。そして、「どうすればこの問いに応えるようなパフォーマンスが作れるだろう?」という話になりました。たしか、そのときにいくつかのストーリー案が出てきたと思います。たとえば、二人の科学者と爆発の話があって、その爆発からスライムが生まれる。それで、そのスライムをどうするか、という展開になったんじゃなかったかな。記憶が正しければ、吉田さんが「旅にしてみてはどうか」と提案してくれました。

吉田(IMM東京事務局メンバー/「音まち千住の縁」ディレクター):科学者が出てくるのが唐突だよねという話になって、何かを見つけに行くなら、「冒険」とかの方があっているんじゃないという話になった気がする。

ダン:それから、いろいろと話し合ったことも覚えています。たとえば、「もし科学者という設定にすると、スライムについての実験をしているだけに見えてしまうかもしれない」という意見が出たり、そのスライムを「外国人」のメタファーとして扱ってしまった場合、それはあまり良くないかもしれないという懸念もあがりました。そのなかで、「じゃあ、実験じゃなくて“冒険”にしてみるのはどうか?」というアイデアが出てきました。他にも、「冒険」にするにしても、マゼランのように“いろんな場所を旅して征服する”というようなイメージにはしたくないことも話し合いました。一つのストーリーラインを使う場合に、どんな問題が起こり得るか、どんなストーリーが考えられるかについても、いろいろと意見を出し合ったのを覚えています。

田辺:スライムが登場する必然性を、どう作るかみたいな話だったんですかね。

冒険ストーリーの台本を創っていくプロセス

進行役:なるほど、そのようにして冒険していくストーリーが生まれていったんですね。企画のタイムラインに戻って、流れを振り返ってみましょうか。

寺山:9月中にIMMチームでブレインストーミングをして、10月の初めには、ダンさんがストーリーが書かれた台本の初稿を出してくださっていました。この時点では、すべてのワークショップをまとめあげた「冒険物語」になっていました。それを一旦、ペコさんにも共有しました。

田辺: 「壮大な台本が、やってきた!」とびっくりしました。

寺山:その後、ペコさんからいただいたフィードバックでは、5〜6年生には少し難しいのではないかとか、イリアさんとのバトンタッチの部分はどうするか、辻褄が合わない箇所への指摘をしてくださいました。これをもとにブラッシュアップしていったのですが、IMMチームとしては「あまり説明をしすぎたくない」というスタンスがありました。一方で、小学生をよく知っているペコさんは、「ちゃんと説明して流れを見せたほうが、子どもたちは何をしているのか理解しやすい」とおっしゃっていました。そのアドバイスによって、「説明をするか、しないか」というバランスをどうとるか、考えるきっかけにもなりました。他にも、お互いの懸念点がいろいろ出てきたので、11月にオンラインで全員ミーティングを開きました。

寺山:最初の台本を振り返ってみると、プレワークショップの進みはほぼ同じなのですが、特にアートコミュニケーターとの出会い、イリアさんとの出会い、最後の振り返りの部分が、最終形態とは大きく違っています。最初は明確ではなかった「冒険の目的」を最後まで何度も考えていきました。

どのくらい説明するべきなのか、あまり説明的なプログラムにしたくなかったことについて

田辺:イリヤさんのワークショップもそうだったと思うんですけど、あまり説明をしすぎないというのを意識的にしていることを知って、逆に私たち(対話型鑑賞を担当しているアートコミュニケーター)はいつも説明をしすぎているのかもしれないと、考え直すきっかけになっていました。説明をしすぎないというのはどういう思いがベースにあったのかなというのを聞いてみたいです。

寺山:子どもたちに提示するなら、こちらが求めるゴールを明確に話してしまうより、それはただ漂わせておいて、考える余地を残したまま渡したいなって思ったんです。それが「説明しない」という気持ちとつながっていました。とにかく自由な表現とか発想を引き出したかったっていうのがありました。

田辺:確かに、こちらがゴールを話しすぎると、子どもたちも「これが答えだよね?」って頭で体験しちゃうかもしれないですよね。実際、振り返っても、「こう言ってほしいんでしょ?」って子どもたちが返してくること、ありますもんね。こういうのを言ってほしいんでしょというのを防ぎたかったっていうのもあるんですね。でも、普通に生きてても物事って急に起こるし、巻き込まれたりするじゃないですか。そうやって、自分が体験したことから何かを学ぶっていう。だから現実に近いパターンなのかなって思ったりもしました。

寺山:ただ、振り返ってみると、やっぱり、子どもたちのアンケートには、対話型鑑賞で伝えた「正解はない」「自分の気持ちは他の人と違っても正解だ」っていうメッセージがすごく多く書かれてて。あぁ、言葉でちゃんと伝えることも重要だと感じました。先生からのフィードバックでも、「もう少し説明があった方がよかった」っていう声もあったんですよね。「冒険を通して、ゴールにたどり着けたかどうかを、子どもたちが自分で感じ取れるようにしたほうがよかったんじゃないか」っていう意見もあって。最後にモヤモヤして終わるんじゃなくて、ちゃんと腑に落ちる体験を作るのもアリだったかもなと先生に言われましたね。「いろんなゴールがあるんだよ」っていうのを、もっとわかりやすい言葉で伝えてもよかったかもですね。

田辺:ああ、なるほど。ゴールを一つに決めつけるわけじゃないけど、「いろんなゴールがあるんだよ」っていうのを。(振り返りのステップで)「冒険はまだ続くんだよ」って言っているのを見て、ミミちゃんはまだ冒険を続けるんだ!って驚きました。斬新!って。現代的だなと思いました。

遠田(IMM事務局メンバー):まさか冒険家のダンダンとみみちゃんがそこで別れちゃうんだっていう展開は、ちょっと驚きましたよね。

寺山:あれは最終日バージョンだったんですよ。それまでは、冒険がゆるやかに、終わったのか終わってないのかわからないような感じだったんです。

吉田:プログラムを実施するたびに更新し続けてたんですよね。

田辺:でも、子どもたちの振り返りを見ると、「正解はない」とか、対話型鑑賞で伝えたことを素直に受け取ってくれたのか、それとも「正解はない」って言ったことを意識しちゃったのか、どっちなんだろう?ってちょっと考えたりしました。そこはいい面もあるし、ちょっと気になる面もある、って感じですよね。

対話型鑑賞のプログラムをつくるプロセス

寺山:ちょっとペコさんにお聞きしたかったんですけど、最初に9月か10月ごろ、対話型鑑賞のプランを共有してもらったじゃないですか?そこから、台本共有後にプラン変更していったと思うんですけど、そのとき、どんな思いやプロセスがあったのか知りたいです。

田辺:例年だとプレワークショップは身体を動かしながらイメージするところの違いを体感するということがあったので、対話型鑑賞のテーマにつながる部分が多かったです。例えばプレワークショップで木の表し方がそれぞれ違うように、対話型鑑賞では言葉で感じることや表すことの違いが出てくるみたいにつながりはあるので、どちらかというと次のアーティスト・ワークショップを意識して、作品やアートカードを見るときのテーマを考えていたんです。なので、最初に出したプランは、けっこうイリアさんのワークショップ寄りで、「見えないものを見えるようにする」みたいなテーマだったんですよね。だから、わりと人物だったり、人物がいない空間に不在の人物の感情を想像してみるような作品を選んでたんです。

でも、その後、プレワークショップの方が全体に関わるテーマで「ストレンジャー/他者性」とか「スライムみたいな得体の知れなさ」ってなっていきました。もちろんそこで「見えない他者を想像する」というテーマでつながるけど、対話型鑑賞の作品が前ともつながるように全体として流れが作れるといいかなって思ったんです。なので、作品も人じゃなくて、緑の顔の謎の人とか、謎のヤギとか、謎の木とか。パッと見て「え、なにこれ…?」っていう、わからない存在を選びました。スライムみたいに、ちょっとわからないから距離を置きたいってなるようなものに対して、どう自分から近づこうとするか、興味を持てるか、っていうテーマにしてたんです。でも、そういう作品選びは難しかったですね。

あと、アートカードの流れも、冒険からいきなり断絶しないように、テーマを「怖い」とか「ネバネバ沼をぬける魔法」とか、スムーズにつなげる工夫をしました。でも、お題があるのは、対話型鑑賞のプログラムを選ぶこっちとしても楽しかったですよね。

対話型鑑賞中の参加者の反応について

寺山:二作品目の対応型鑑賞、子どもたちの反応見ても「うわ、難しかったんだろうな」って思いました。ネバネバしてた時間だったのかなと思いました。

田辺:ですよね。ちょっとチャレンジしすぎたかも、って反省してます。テーマに寄せすぎたというか…。やっぱり、スライムだったんですよね、あの子たち。わからないものに向き合う時間になったと思います。でも、対話型鑑賞の前後をつなげるという役割もあるけど、アート作品に普段あまり触れない子たちにとっても、「自分の目で見て、自分の言葉で語る楽しさ」を知ってもらうというのも一つのミッションなので、もうちょっと難しいと思わせてしまったらよくないとも思っています。やっぱりアートとの一番最初の出会いであるということをもっと大切にしてもよかったなと思って、その塩梅を意識すればよかったなって、反省点として持っています。そのバランスは、今後活かしていきたいですね。

プログラム実施にむけた準備

寺山:プログラムづくりの過程に戻るとペコさんとのストーリーに対するフィードバックをもらってから、ダンさんと一緒にリハーサルを重ねながら作っていく時間があったのですが、中学校のワークショップ実施との両立が課題でした。

ダン:中学校のワークショップ実施後やミーティングの後にリハーサルをしていたけど、疲れて目を合わせるだけで「今日はやめよう」となる日もありました。

寺山:私が担当していたのは、音楽で、最初はイントロとウォームアップ用の音楽を作ろうとしていました。でも結局、計画的には作れず、イントロ部分、ウォームアップ、スライム用のモチーフになる音を決めて、あとは即興で作っていく感じになりました。12月13日に、対応型鑑賞の新プラン共有していただいて、17日に通しリハーサルを行いました。この通しリハーサルには、当日スタッフとして参加してもらう東京藝大の熊倉研究室の学生たちにも参加してもらい、当日の動きをレクチャーをしたり、プログラム全体を体験してもらったりしました。

実施後のプログラムの変化

寺山:12月19日、20日には足立区立関原小学校で本番を迎えました。台本は、本番を重ねる中でかなり変わりながら進んでいきました。特に、振り返りの部分についての変更点は多かったです。12月実施の学校では、音楽を聴いて感情を想像して動いてみるというのがすごく難しそうという反応があったので、2月実施の時は、まず小さい部分から動きを考えてみようというところから始めてみました。そして、最終日には結末の部分をどう腑に落ちる形で終わらせるかというのを考え、さっき話していたように、ダンさんと私で冒険の終わり方が違うという結末にしました。

進行役:印象に残っていることとしては、IMMチームとペコさんと一緒に作っていったものが、だんだんと当日参加してくれた学生スタッフたちによって厚くなる感じがしていました。2月の方の開催前のミーティングの時などに、みんなで台本を読み合わせして、ちょっとやってみようという時に、ここ辻褄合ってないんじゃないとか指摘してくれたり、こういうアイディアはどうかと一緒に考えてくれました。もちろん当日も本当に子どもたちの近くで見てくれているのは、当日参加してくれたスタッフのみんななので、フィードバックをくれて、それを変えていくことができたのがすごい印象に残っています。そういう一人一人の見ていることがワークショップの中でとても重要だなと感じました。全体として何かが起きているということよりも、一人一人の生徒たちがちょっと違う反応を見せるところをスタッフが発見することができるということは、一人一人の生徒が気にかけられているという状況だと思うんです。ワークショップをしながら生徒たちのことを知っていく、そのことでまたプログラムがブラッシュアップされていくという過程がとても面白かったです。

ダン:みみちゃんが、当日スタッフの意見を聞いて取り入れてくれるのに大変なポジションだったかなと思います。私自身は、何度か日本でのワークショップを経験してきて、参加してくれる生徒たちが指示のようには動いてくれなくても大丈夫で、むしろみんなが同じように参加してもらえるように強制したくない気持ちの方が強かったです。

寺山:すごい葛藤が起きているプログラムだったなと思っています。それは、例年よりも、若干やりたくないと思わせてしまうシーンが参加してくれた特に女の子に多かったんじゃないかなと思います。対話型鑑賞の中で、難しい題材に挑戦する場面は、すごく良いことだとも思っていて、葛藤をもっと仕掛けたいという思いもありました。そんな中、あわあわしている生徒たちがいて、「ごめんね」と思いながらも進めていました。

ただ、同時に当日スタッフには食事も出せなかったし、他のプログラムよりも学生スタッフの役割がすごく大きかったと感じているので(特に最後の振り返りでは学生がファシリテーションをして、グループで話す時間もあったので)、当日スタッフとして参加している人たちの心理的負担もすごくあったんじゃないかと思います。できれば、当日スタッフとしても、ワークショップを一緒に作っていく相手として見ていたいという気持ちがありました。

田辺:その葛藤を仕掛けたいと思っていたのは、びっくりだけど、とはいえ、お膳立てしすぎたワークショップには違和感を感じることもありました。考え過ぎられていて、サポートを過剰にして、戸惑わないように、わからないことがないように、嫌な思いをしないようにするのもどうかと思っていて、最低限の心理的安全性を保ちながら、戸惑いなど生の感情が起こることの方が良いなと思っています。

寺山:それでも楽しかったという記憶が残ってくれると一番良いと思います。ついていけなかった、戸惑いしかなかったという記憶だけだと嫌だなと思っています。


全体のプログラムの流れの作り方について

進行役:今回のプログラムを作っていくに当たって、公募でアーティストを募集し、応募してくれたイリアさんによる「Invisible/Visible」をテーマにしたワークショップの案が最初にありました。そこからプレや対話型鑑賞、振り返りを作っていたと思います。その過程で、イリアさんのワークショップから何を引き出し、広げようとしていたのか、全体の流れとしてはどうだったのかという点について、何かありますか?

寺山:まず、冒険の中に出てくるすべてのスポット、スライム、ストレンジャーも含めて、「見えないものを想像して形作っていく」っていうのが大きなテーマになってましたね。そこは、イリアさんのテーマとも通じるなと思っていました。冒険の中では、対話型鑑賞とイリアさんのワークショップが、スライムのネバネバ沼を渡るヒントみたいな形で出てきましたよね。だから、テーマに合わせたというよりは、冒険の流れに自然につじつまを合わせることを一番意識していたのかなと。ただ、結果的に出てきたテーマが全部、「見えない他者を想像する」ことにつながっていたんですよね。「他者が本当は話したいけど話していない気持ちに耳を傾ける」ということの「じっくり耳を傾ける」というパートが、対話型鑑賞なのかなと思いますし。そういった姿勢が最後、ネバネバ沼を渡る場面にもぴったりフィットしていったと思います。

田辺:ああ、そっか…。やっぱり、最初にイリアさんのワークショップがあって、そこからプレワークショップの「ストレンジャー」とか「スライム」とかに展開していったんだなぁって、改めて思いました。当然ながらつながっているし、対話型鑑賞の作品選びも、最初から「見えないものを想像する」っていうテーマはブレずにあって。それが、プレワークショップの台本ができていく中で、よりストレンジャーな見た目になった、っていうだけのことですね。だから、アーティスト・ワークショップも含めて、全部がちゃんとつながってる。もともと、対話型鑑賞でやろうとしてることも、アート作品そのものも他者だから、つまり、「誰かの表現=他者」をより深く見ようとすることだし、それを見て他の人がどう感じているかを、つまり”見えないものを聞こうとすること”だから、それ自体が今回のテーマとすごく親和性が高かったんです。

ダン:私も最初の台本を書く前にイリヤのワークショップのプランと対話型鑑賞のプランを読んで、何を言おうとしているのか捉えようとしました。そうすると、やり方は違うけど、両者ともに「見方と考え方の様々な方法」というテーマで共通していることがわかって、1日で一貫したメッセージを考えることは難しいことではなかったです。

田辺:ダンさんも、そう思ってたんですね。さっきのイリアさんの話の続きで、また細かいんですけど、対話型鑑賞のパートの最後に生徒たちに感想や気づいたことを聞いていた時に、「あの子が、こういうふうに考えるんだ」と新鮮な驚きを感じた、みたいな言葉が出てきたんです。それがまさに、イリアさんのワークショップで伝えたかったことと直結しているなと思いました。普段、クラスの中では「この子はこういう子」というキャラクターやイメージが固定化されがちだけど、実際にじっくり聞いてみると、知らなかった側面や見えない感情、考えに気づくことができる。それに気づくきっかけを子どもたち自身が体験して、素直な言葉で教えてくれたのが本当にうれしかったです。だから、その感想をもらって以降、イリアさんのパートをつなげる際に、「普段見えているイメージだけじゃなく、目に見えない面もあるかもしれないよ」という意識を持って伝えるように意識しました。子どもたちの言葉が、私たちへのヒントになったってこともありました。

今後に活かしていきたいこと

進行役:今日は、じっくりプログラムの構想から実施までのプロセスを話ながら、企画や運営に関わるそれぞれのメンバーの思いを聞くことができて良かったです。ありがとうございました。最後に、今後の展開や、実施してみたプログラムのブラッシュアップできると思う点などについてそれぞれから意見を聞いて終わりたいと思います。

寺山:今回、いろんな方から「もっと説明を入れるべきだった」というフィードバックがありました。今後は、「どの程度説明するか」「どう伝えるか」をもっと考えたうえで、このワークショップを改善していきたいです。また、もし可能なら、「ネバネバ」というキーワードをもっとプログラム全体にちりばめて、戸惑いや発見の場面ごとに「ネバネバ」が出てきたら面白いな、とも思っています。それによって、プログラム全体に一貫性が生まれ、子どもたちも自然とテーマを感じ取れるかもしれません。それだと、イリアさんのワークショップとか対話型鑑賞の中に大きく介入することになるので、現実的に難しいかもしれませんが、挑戦してみたいです。

ダン:台本の精度を高めたいというのとプログラムの構成自体も考え直してブラッシュアップしたいです。もう少し参加している生徒のリアクションとか声を拾えるといいなと思います。他には、もしかしたら歌とかを取り入れて、ストーリーを伝える中で歌いだすとかも良いかもしれません。もっと楽しい時間になるかなと思います。

田辺:今年度は例年よりプログラム同士がつながっていたとはいえ、やはり個別に作った部分も多く、「いっそのこと全部一緒に作ったらどうなるんだろう?」という気持ちもありました。ただ、毎年そうですが、初日を迎えて初めて、「ああ、こういうパートだったんだ」と理解できるところも大きいんですよね。それに、プレワークショップやアーティストワークショップは、それぞれのアーティストが自由に作ってくれたものなので、「説明をしすぎない」というスタイルがありますが、対話型鑑賞では「言葉を使って説明する」スタイルで、学校向けに何度もやってきた経験から説明しすぎているというのは、質が違って当然だとも思います。だからこそ、もし本当に最初からワンテーマで全パートを設計できたらどうなるのか、興味はあります。

あと、鑑賞単独のプログラムについて言うと、多文化共生というテーマにもっと深く踏み込みたい。古今東西、いろんな文化や地域、時代の作品を扱っているのに、その背景にまであまり触れられていないなという気づきもありました。作品の持つバックボーンにまで目を向ければ、子どもたちにもさらに多様性を感じてもらえるかもしれません。

進行役:みなさん、今日はシェアしてくれて、ありがとうございました。今年度も本当にお疲れ様でした!また来年やっていくことを考えていきましょう。