多文化が織りなす創造のきらめき
「アート・エデュケーション・プログラム」の実施レポート

文=リン ハイリン(学生スタッフ)

編集=神道朝子(学生スタッフ)

 

多様な表現を通して文化の多様性に触れる4日間のワークショップ

Cultural Kaleidoscope「文化の万華鏡」

今年度は、第十四中学校の美術部の学生を対象にワークショップを開催しました。異なるバックグラウンドを持つ3人のアーティストによって開催されたワークショップについて1日ずつご紹介します。

IMMとアーティストの紹介 (左からIMMスタッフ:寺山穂, 参加アーティスト:フロル, アヤナ, アーサー)


セッション1:旅の始ま

初日のテーマは「トラベル・ジャーナルの作成について」でした。生徒たちは、自分たちのトラベル・ジャーナルをデザインして装飾する過程で、「世界市民」という概念と出会い、グローバル化や文化的多様性の意味について考えていきます。このプロセスでは、各アーティストが順番に自身の背景や創作活動について語り、ワークショップ全体の計画やこれからの活動内容について簡単に説明しました。

生徒たちは文化の多様性の大切さについて理解を深めるとともに、自分たちの役割や価値を探求し始めました。また、自分の個性や自己表現の重要性に気づくきっかけにもなりました。他文化的な背景を持つ生徒も、親しみやすいサポートと仲間意識を提供することで、スムーズに環境に馴染んでいきました。生徒たちは徐々に緊張感を和らげ、自由な創造力を発揮しながら部活動の仲間やIMM東京のスタッフとのつながりを築いていきました。

アーティストたちは生徒たちとコミュニケーションをとりながら仲を深めていき、3人が使う言語のスペイン語とポルトガル語での挨拶を生徒たちに伝えました。言語を通して外国文化に触れることで、生徒たちの探究心が刺激されたと思います。私は台湾出身なので、異なる文化背景を持つスタッフの一員として、こうした変化の重要性を深く実感しました。アートは単なるコミュニケーションの手段にとどまらず、文化の違いを越える架け橋となるものだと思います。

この日の最後には、生徒たちは次回の授業に向けた「宿題」を受け取りました。次回の授業で使用する自然の素材を集めてくるという宿題でした。生徒たちに課された宿題を通して、周囲の多様性に目を向け、自然の要素を作品に取り入れることを試してもらうためです。

はじめて出会う3人のアーティストとの出会いを生徒たちはどのように受け取ったのでしょうか。

4日間をかけて創作するトラベル・ジャーナル

生徒とアーティストの交流

セッション2:自然と文化の交差点

この日は、自然研究と芸術的創作の分野で知られるアーティスト、アヤナ・サイト-・ミラさんが、生徒たちを自然と文化のつながりを探求する旅へと導きました。生徒たちは屋外で集めた素材を用い、ディスカッションを通じて、これらの素材の起源について考えました。例えば、それがどのような環境条件や気候で生まれたのか、またそれらがどのような感情を引き起こすのかを話し合いました。こうしたやり取りを通じて、生徒たちは自然を自身の体験と結びつけ、自然界に隠された無限の可能性を見出しました。

アヤナさんは、自然素材から顔料を抽出する方法を用い、自然から得られるインスピレーションによってどのように芸術表現へと変わるのかをテーマに創作ワークショップを考えました。生徒たちが集めた素材を使って、染料を試したり、色を混ぜたり、グラデーション効果を作り出したりする実験を行いました。この活動では、生徒たちの好奇心を刺激し、「植物の種から顔料が作れるなんて思いもしなかった!」という驚きの声も上がりました。作業が進むにつれ、生徒たちはその創造力を解き放ち、色やデザインの使い方において鋭い観察力と豊かな想像力を発揮しました。

セッションの最後には、生徒たちは自分自身の「自然物語」を記録するために、収集した葉や枝などを使ったユニークなスタンプを制作しました。それぞれの作品は、自然に対する個人的な考え方を反映し、今後のセッションに向けた新たなインスピレーションを与えるものでした。この活動を通じて、アヤナさんは生徒たちに自然と文化の繊細な結びつきを探求することを促すだけでなく、自然の持つ創造的な可能性を発見させる手助けをしました。この体験によって、生徒たちは表現方法の新たな旅の道に手招きされたことでしょう。

アーティストの思いに触れる生徒たち
天然素材のスタンプ

セッション3:想像力の色彩を描く

3日目は、メキシコのアーティストであるフロル・アルミンダ・ガルシア・レアさんが考案した創作ワークショップを行いました。彼女はメキシコの「Dia de Muertos / 死者の日」(亡くなった家族などと一緒に時間を過ごし祝う日)からインスピレーションを得ており、カラフルなキャンドル、パン、果物、パペル・ピカド(切り紙飾り)、骸骨の装飾を用いて、大好きなメキシコの祭りの雰囲気を日本で集められるもので再現しました。これにより、生徒たちはこの祭りが持つ感情や象徴性に触れる体験をしました。また、日本の「お盆」などの類似した伝統と比較することで、生徒たちは異文化の共通点や違いについて考える機会を得ました。

映画『リメンバー・ミー』(2017)でも知られる「Dia de Muertos / 死者の日」の話では、フロルさんが自分の好きなことを楽しく話す様子により、生徒たちも強い関心を持ちました。フロルさんは、「Dia de Muertos / 死者の日」の祭壇に見られる色彩豊かな飾りや食べ物やシンボルなどの色から受ける印象を言葉にしてみたり、表現してみることを始めました。

創作ワークショップでは、「ヴィジュアル・ポエム」(言葉を使わない詩)を生徒たちと作ることになりました。自分の大切にしていることや好きなこと、今の感情などを毛糸や綿などさまざまな素材を使って表現を探求していきました。何を作ろうか迷っている生徒たちに、フロル さんは、自分の友人との関係や幸せな気持ちになることなど日常生活でのエピソードを話し、そこからどのように表現できるかを一緒に考えていきました。このような創作を通したやり取りを通して、お互いの生活を少しずつ知っていく時間を過ごせました。

「Dia de Muertos / 死者の日」の祭壇を再現
毛糸を使って 「ビジュアルポエム 」を飾る

セッション4:物語を通じて身体を探求する

ブラジルのアーティストであるアーサー・デ・オリベイラさんは、「身体表現と物語」をテーマに、生徒たちが身体と想像力を通じて文化や創造性を探求するためのワークショップを行いました。この活動では、ブラジルの伝説の話、「野口体操※」、そして身体表現を組み合わせ、段階的なアプローチで理解を深めることを目指しました。

ウォームアップでは、アーサーさんが深い呼吸や地面を捉える方法を紹介し、自分の身体を空間と結びつける感覚を養うことを目指しました。また、コットンや布地を使って、質感や重さが動きや感覚にどのように影響を与えるかを考えました。これにより、生徒たちは身体と物の相互作用を直感的に学びました。

さらに、ブラジルの先住民であるカインガング族の「アリクイ」にまつわる伝説に触発され、生徒たちは自分たちの身体を使ってアリクイの動きを表現しました。ある生徒は、90センチメートルの尾を持つ鮮やかな赤いアリクイを想像し、その揺れる重くゆったりとした歩き方をまねしました。また、この生徒は「赤色がエネルギーや幸運を象徴していることに気づきました」と語り、その作品に自身の想いを込めました。

セッションの終わりに、アーサーさんは「今日の創作は、世界を新しい視点で見る助けになりましたか?」と問いかけました。この物語、身体、そして素材を通じた探求は、生徒たちに新しい文化的かつ感覚的な体験を提供しました。身の回りのものを丁寧に発見し活用することが創造の源であることを示し、生徒たちの中に、未来の大胆な探求と革新への種を蒔きました。

※東京藝術大学名誉教授の故・野口三千三(のぐち・みちぞう)が創始した体操法。 がんばりを捨て、体の力を抜き、自身の体の重さに身を任せることによって生まれる、ゆらゆらと揺れる気持ちのよい動きを基本としている。

デモンストレーションの様子
身体を使った表現を体験する


まとめ

今回のアート・エデュケーションプログラムでは、生徒たちは文化的多様性を学ぶだけでなく、他者や自分自身とのつながりを再発見しました。最初は少し恥ずかしがりながらも、活動を進めるうちに積極的に取り組む姿勢が見られるようになり、創造力を発揮しながらアートを通じた表現を楽しむ様子が見えました。3人のアーティストがそれぞれ独自の内容を提供したことで、プログラムは常に新鮮で魅力的なものとなりました。最終的に、生徒たちはこれまでの活動を振り返りながら、最終作品を通じて自然や文化交流に関する深い考察を示しました。

私は、初めてこの活動に参加したスタッフの一人として、また異なる文化的背景を持つ者として、芸術が異文化交流において果たす重要な役割を深く実感しました。例えば、活動初日、生徒たちはお互いにどのように接するべきか戸惑っている様子でした。その中で、「自分でできるのかな」と不安げに小声で呟く生徒もいました。しかし、時間が経つにつれ、隣の生徒とアイデアを出し合ったり、スタッフやアーティストからアドバイスを受けたりしながら、自分の考えを試してみるようになりました。一人の生徒が、トラベル・ジャーナルを作る過程で「どうすればもっとカラフルにできるか?」と相談しながら、少しずつ色やデザインを変えていく姿がとても印象的でした。最終的に作品を完成させた後、その生徒は「できるかどうか最初は分からなかったけれど、やってみたら楽しくなった」と話してくれました。この言葉は、アートを通じて不安を克服するプロセスを象徴しているように感じました。

また、中国語を母語とする生徒は活動中に「もっと日本語と英語を頑張りたい」と私に語りました。異文化の言葉や考え方に触れたことで「コミュニケーションを取りたい」という気持ちが芽生えたのだと思います。その生徒がアーティストに自分の作品を説明するときには、自信を持って発言している様子が印象的でした。こうした変化から、このプログラムが生徒たちにもたらす影響の大きさを再認識しました。

生徒たちはアーティストからの心のこもったコミュニケーションを通じて、言語の壁を乗り越え、積極性を身につけていきました。自然素材を探求し、色彩を扱う中で、アート制作における多様なアプローチを体験するとともに、身近な資源を活用する方法を学びました。普段は控えめだった生徒たちも、徐々に自信を深め、仲間と積極的に交流するようになり、共有体験を通じて文化的なギャップを乗り越えることができました。アーティストたちが、生徒たちから信頼と感謝の気持ちを受け取る瞬間は、心に深く残るものでした。この活動が生徒たちにもたらした影響の大きさを改めて感じることができました。

この経験が、生徒たちにとって新しい一歩を踏み出すきっかけとなり、彼らが自信を持って新しい人々や挑戦を迎え入れる力を育む支えになったと確信しています。このプログラムは、単なる学びの機会を超えた、意義深い経験となりました。人と文化をつなぐ架け橋として、今後も大きな役割を果たしていくと感じています。

アーティストへの感謝の気持ちを伝える時間
みんなの思いを分かち合う時

写真提供:音まち事務局