IMM東京公募展2023
「It’s not a cultural showcase, but a window to the soul」レポート
2023年の夏から秋にかけて、イミグレーション・ミュージアム・東京(以下IMM東京)の公募型展覧会「It’s not a cultural showcase, but a window to the soul」が、東京ビエンナーレの一環として、東京のオフィスビルが立ち並ぶ大丸有エリアにて開催されました。総勢34組のアーティスト・グループによって、東京駅からほど近い5つのビルディングのショーウィンドーが彩られました。
本レポートでは今回初めてIMM東京の公募展にプロジェクトチームとして関わった筆者の視点から、本展の開催までを振り返りたいと思います。
公募展が開催されるまで
6月にIMM東京主宰の岩井成昭さん、公募展がはじまった2020年よりIMM東京の事務局として運営に関わる西川汐さんの2人と共に、IMM Open Call Project Team 2023 としての活動がはじまり、7月から本格的に公募展の準備が進められることとなりました。まずは出展作家の募集。公募展に必要な情報、募集要項や、作品内容について、3人で話し合います。
IMM東京公募展の大きな特徴のひとつが、昨年度から実施しているクリエイティブ・ライフ部門です。これは、「日本での日常生活のなかで、あなたの文化を守りながら工夫しているものやこと」を募集するもので、例えばレシピや、日用品、おまじないなど、本人は自覚していないかもしれないけど、生活する上で重要な慣習などを第三者の視点から見出そうとするもの。今回、展示会場となるのはオフィスビルのショーケースです。そのため、生モノや展示期間中に変化するものの展示は難しいかもしれない…と思いながらも、IMM東京の公募展でしか出会えない表現と出会うため、昨年度に引き続き、クリエイティブ・ライフ部門からも募集をおこなうこととなりました。
デザイナーの大槻智央さんにカッコいい募集チラシをつくっていただき、8月にいざ募集開始!ですが、最初はなかなか募集が集まらず応募期間を延長することとなりました。さて、応募期間を延長したわたしたちに待ち受けていたのは、提示されていた展示場所に入りきらないほどの申し込みと作品のボリューム。元々、西川さんとは運営の観点からも作家数は20組以内で考えようと話していました(実際に参加いただいたのは34組!)が、応募用紙に書かれた作品のメッセージを読んでいると、熱い思いをもった皆さんと一緒に展示したい!!の気持ちが大きくなり、なるべく申し込んだ作家全員に出展してもらう方向に決めました。
9月には出展者一人ひとりとのオンライン面談を西川さん、岩井さんと3人でおこない、それぞれの作品に対する思いやバックグラウンドについてのお話を聞きました。この面談を通じて、話したことや作家と作品の雰囲気を元にして、岩井さんがキュレーションをおこない、いよいよ10月4日の深夜帯3日間にかけてのインストールがスタートしました。インストールに先駆けて、作家から作品を受け取った際には、一人ひとりの出展者とじかに、作品のことだけではなく、普段の仕事について、作品をつくりはじめたきっかけなどを話し、こちら側も展覧会を多くの人に届けたいという思いがより一層強くなりました。
今回インストールをお願いしたのは、アーティストの太田遥さん。展示什器もつくってもらい、最後まで今回の公募展を伴走してくださりました。普段は建築の現場で働くコウムさんや、公募展出展作家のINHOさん3人とIMM東京チームの3人で、静かな真夜中の大丸有エリアでインストールをおこないました。大小様々なハプニングがあったものの、各ビルの警備員の方に優しく見守られながら、なんとかオープンすることができました。
会期中のできごととその後
10月7日に無事にオープンした展覧会ですが、会場は大手町駅から有楽町駅までの広範囲に位置する5つのビルディングのショーウィンドーで、そのほとんどが地下のフロアや通路に面しています。インストールと同時並行で、何度も修正を重ねて準備した会場マップが手元にあっても、鑑賞者にとって親切な展示とは決して言えないものでしょう。しかし、普段そこで働く人でなければ足を運ぶことの少ない空間に、展示された作品を探しに行く行為は、34組の異なる他者の生活や言葉を聞きに行く行為だと、わたしたちは捉えています(それでももっと鑑賞者にとって良い鑑賞体験ができたのではないか…と反省点も多くありますが)。また、大企業や財閥のオフィスビルがひしめく大丸有エリアという日本の中心地で、周縁化されてしまいがちな海外ルーツを持った人々の作品を展示するということとはどういうことなのか。ビルを周遊しながらそんな作品との出会いをたのしみつつ、在留者や移住者の置かれている現状を知るきっかけになればと思い、展覧会をつくりました。
会期中は映画監督の川和田恵真さんをお呼びしておこなったトークイベントと、出展作家が作品について話すギャラリーツアーの2つをおこないました。どちらも本展に足を運んでくださる鑑賞者の声を聞くことができる大変有意義な時間となりました。
川和田さんとのトークでは、監督作品「マイスモールランド」で描いたクルドの人々を取り巻く日本の現状や社会状況について、プロセスから丁寧にお話しいただきました。エンディングのその先のストーリーが見る人に委ねられている点は、IMM東京のコンセプトとも通ずるものがあります。トーク終了後は、川和田さんにイベントの参加者と岩井さんと共に、展示会場を見ていただきました。
ギャラリーツアーでは、出展作家と参加者が展示会場である5つのビルを共に歩き、それぞれの作品を前に作家自身に話してもらいました。これまでのIMM東京に事務局として関わっていたという方や、東京ビエンナーレのプログラムを制覇する勢いでさまざまな関連イベントに参加しているという方など、各回およそ10名の方々にご参加いただきました。
ツアー後には、作家や岩井さんとツアー参加者同士が交流する時間を設け、IMM東京の取り組みやそれぞれが展開しているユニークな表現活動を共有することができました。この場に集った人それぞれがどのようにそれぞれの活動を展開してくのか、とてもたのしみです。
今回の出展作家の中には、子育て中、あるいは子育てを終えたお母さんが多く、作品の受け取りや返却で会った際に、それぞれに子育ての悩みや日本で生活する上での葛藤を共有していたことが印象に残りました。「母親」や「外国人」、「移住者」としての眼差しを日々受けるなかで、表現することが自分自身を取り戻す行為なのだと語る出展者もいました。年齢もルーツも異なる彼女たちが表現することの切実さを感じるとともに、作家として出会う場をつくれたことは、これまでのエリアとは異なる場所で開催した今回の公募展の意義なのではないかと感じました。
今回の公募展のタイトルは「It’s not a cultural showcase, but a window to the soul」(それは文化のショーケースではなく、心の窓)。海外ルーツというアイデンティティだけでなく、作家それぞれがもつ交差するアイデンティティの表現を通して、見る人が共感したり、接点を見出すことは、展覧会という場の役割であると同時に、IMM東京がずっと大切にしてきたことでもあります。
IMM東京がこれまで、小金井や足立区で丁寧な活動を展開してきたからこそ、今回、東京ビエンナーレという大きい枠組みの中で、新しい出会いやつながりが生まれてきたのだと再確認しました。IMM東京はこれからも形やプラットフォームを変えながら、隣にいるさまざまなルーツの表現者と共に歩いて行きます。
執筆:櫻井莉菜
1998年生まれ。2023年秋田公立美術大学大学院複合芸術研究科修了。インターセクショナルフェミニズムの視点から、アートプロジェクトや展覧会の企画・運営にかかわる。IMM Open Call Project Team 2023のプロジェクトコーディネーターとして、今回はじめてIMM東京に関わる。